今回は『土圧式推進工法の基礎知識』について解説します。
目次
土圧式推進工法とは
土圧式推進工法は添加材の有無により、土圧式と泥土圧式に分類されます。添加材の注入は、一般的にシルト・粘土の含有率が30%未満の場合に、土砂の塑性流動化を促進するために行われます。
土圧式推進工法の長所と短所
刃口式との比較
長所 | ・切羽の安定確実性が高いので、適応範囲が広い。 |
・滑材の注入は、機内への流入がなく確実に行える。 | |
・機械掘削で推進速度が速いため、工期が短く済む。 | |
・切羽が密閉されていて、作業の安定性が高い。 | |
短所 |
・機械費および仮設備費が高い。 |
・切羽の状態を目視で判断できない。 |
泥水式との比較
長所 | ・大規模な泥水処理設備を必要とせず、比較的狭い作業基地で施工可能。 |
短所 |
・掘削土砂の搬出をトロバケットにより行う場合、施工性が若干劣る。 |
泥濃式との比較
長所 | ・地下水圧の高い地層にも対応できる。 |
泥土について
泥土には切羽の安定を保持する役割があります。
泥土に必要な性質
切羽安定保持のため、カッタチャンバ内の土砂(泥土)は次のような性質が求められます。
❶塑性流動性を持つこと
カッタチャンバ内の土砂(泥土)は加圧された状態のまま、カッタチャンバ内を移動しスクリュコンベヤから排出されるため、加圧下でも容易に移動・変形できる塑性流動性が必要とされます。
❷難透水性と圧力保持機能を持つこと
カッタチャンバ内の土砂(泥土)は、切羽の水圧および土圧に対抗するため、難透水性と圧力保持機能を持つことが不可欠です。
泥土品質管理
安定した品質を保持するとともに、土質や掘進中の変化に対応するために常に泥土管理を行います。
管理する項目は主に以下の通りです。
- 排土スランプ測定
- 単位体積重量、含水比測定
- 目視、手触り(土砂と水が分離していないか、粘りはあるか)
添加材について
掘削土砂を塑性流動性を有する泥土に変換するには、掘削対象土にシルト・粘土などの微細粒子(75μm以下)が30%以上が含まれていることが必要です。つまり、シルト・粘土の含有率が30%未満の土質では添加材を注入し、塑性流動化を促進させる役割があります。
添加材に必要な性質
添加材には、水に希釈されにくいこと、チャンバおよび切羽面に十分浸透可能であることなどが求められます。
添加材の適用
掘削土砂が適度な塑性流動性を有するためには、30%以上の微細粒子(75μm以下)の含有が必要だが、さらに適量の細砂分(75μm~0.25mm)を含有していることが望ましいです。
この考え方により、0.075mm未満の粒径が30%、0.25mm以下の粒径が40%、2.0mm以下の粒径が60%の通過率となる粒径加積曲線が添加材の要・不要の境界線となります。
この境界線より上方では添加材は不要で、下方では添加材が必要となります。
添加材の材料
ベントナイト・粘土を主材とする溶液、高分子吸水体を主材とする溶液、気泡等が使用されています。
添加材の濃度と使用量
土質の粒度分布から粒径加積曲線を描き、粒径境界線と対比し、0.075mm、0.25mm、2.0mmに対応する粒径の不足量から以下の式により、濃度と使用量を求めます。
①添加材の濃度算定式
濃度(D)=a(30-P0.075)α+(40-P0.25)+β+(60-P2.0)γ
※土の粒径の大きさと名称については『推進工法の基礎知識』を参照
②添加材の使用量算定式
使用量(L/㎥)=6×D(濃度)※Dは①で求めた濃度
ここでの使用量の単位は地山1㎥当たりの添加材の量(L)を表します。
排土処理
掘進機から排出された土砂を、トロバケットで郊外へ搬出する方法が一般的です。最近では、土砂圧送ポンプ等の連続排土装置の使用も増えています。このような連続排土装置は礫混り土には適応できない場合が多いので、土質への適応性を十分検討する必要があります。
排出された土砂は、建設汚泥として産廃処理する方法と、建設汚泥のリサイクルのルールを守り発生土の改質処理をする場合があります。
滑材について
推進工法では、掘進機が掘り進むとともに後続の推進管も地中を移動します。推進管全体の移動に伴う推進管外周の地山の緩みの抑制、推進管と地山の摩擦低減のために推進管外周に滑材を注入します。
<滑材注入平面図(イメージ)>
滑材の種類
一体型混合滑材
工場出荷時にあらかじめ配合された粉体または液体の滑材、定められた清水で混練りするだけなので、作業性がよいです。
粒状型滑材
高吸水性ポリマーを主成分とした滑材です。滑材としての性能品質は最も信頼できる材料ですが、耐久性に乏しいため、長時間かかる推進では中間部から追加注入する必要があります。
固結型滑材
二液混合タイプで、混合後およそ30~60秒以内にゲル状態になる滑材です。可塑剤とも呼ばれます。透水性の高い砂礫層によく使用されます。
遅硬性滑材
推進時は滑材、推進終了後は固化して裏込め材として機能する滑材です。これまで裏込め注入ができなかった小口径管推進工法や、大中口径における裏込め注入作業の省略など工期短縮、コストダウンができる滑材として使用されることがあります。しかし、何らかの推進トラブルにより滑材の有効期間を超過すると、滑材が硬化して推進不能になる場合があるため使用にあたっては十分な検討が必要です。
滑材の注入量
掘進機の掘削断面積から推進管外径面積を差し引いた量を注入します。
※推進延長が250m以上の場合、滑材の劣化による推進力の上昇を抑えるため、滑材を補足注入する必要があります。
裏込め材について
すべての推進が終了した後、管体周囲に裏込め注入を行い、管と地山の空隙を充填し、地山の緩みの防止および推進管の継手部の止水性を確実にします。注入は、推進管の注入孔から行います。
裏込め材に必要な性質
裏込め材には、流動性と地下水に希釈されないことが求められます。管体周囲に均質な裏込め層を形成するために、裏込め材・注入位置の選定、注入の順序、1か所当たりの注入量や注入圧力等を適切に管理する必要があります。
裏込め材の注入量
滑材と同量を注入します。
以上、今回は土圧式推進工法の基礎知識についてご紹介しました。
参考文献)
「推進工法体系Ⅰ推進工法技術編2007年版」(公社)日本下水道管渠推進技術協会(2007年4月)
「推進工法体系Ⅱ計画設計・施工管理・基礎知識編2007年版」(公社)日本下水道管渠推進技術協会(2007年4月)
「月間推進技術Vol.27 №6」(公社)日本推進技術協会(2013年6月)
「月間推進技術Vol.30 №5」(公社)日本推進技術協会(2016年5月)
関連製品
粘土の表面を改質し切羽、チャンバー、および排泥管内への付着力を低減、スムーズな排土が可能。
推進工法やシールド工法、ケーソン工法において躯体と地山の摩擦を低減させるゲル状滑材。